私が願ったこと、そして叶えたこと







 休日というものがあるのなら、きっと朝は温かい珈琲と焼きたてのトーストで、夜更かしをした君の顔を見るのだろう。

 だが、私には休日というものがない。



 鳴り響く電話、点灯したままのディスプレイ、激しい靴音。どれもこれもが忙しそうに急かしてくる。

「回答はまだか」

「至急連絡を送れ」

「早く、連絡を今すぐに……」

 爆音で搔き消える言葉を必死に拾い上げ、キーボードに命令を叩きこむ。短い命令を何度も叩きこんだ後、ただ処理の完了を待つ。コンマ秒で流れていく処理を目視で追っていく。その間にも電話が鳴る。

 処理を完了し、端末からキーボードを外した。

「削除完了」

 三度繰り返すと靴音は一方方向へ流れ出し、その流れに身を任せた。

 背後を振り返る必要もない、爆音が端末を部屋ごと埋めていく光景は視界の端の埃が教えてくれる。視界が完全に奪われる前に通路を抜け、広間を抜け、玄関を抜けて行った。

 そして、もう一度。

「削除完了」

 冷たい銃口がこちらに向けられた。発射されるのは火薬で熱せられた弾丸なのに、その銃口は視線に似て、やけに冷たかった。

 冷たい視線に促され、足早にトラックへ向かった。

「次だ」

 マスク越しの、くぐもった声は事務的だが熱を帯びていた。少なからず緊張したのだろう、資料を渡す手は震えていた。

 渡された資料を一瞥し、目を細めるしかなかった。



 トラックからヘリに、ヘリから飛行機に乗り換える。着替えと食事を機内で済ませると、やっと人間らしい格好になった。溜め息が出た。まだ汗と埃と油の臭いがまとわりついていて、獣が人間の服を着こんだような、そんな気がする。

「匂うな」

 自分に向けての言葉は、向かいの相手にも聞こえたようだ。

 青く鋭い視線、不愉快そうに歪んだ眉、固く結んだ唇。

「そんな不愉快そうな顔をしないでくれ。好きで見ているわけじゃないんだ」

 口角が下がり、更に不愉快そうな表情をするばかりだった。

 言葉通り、好きで見ているわけではない。警護という名の見張りを選べるような時間も余裕も無かった。食事をする時間も、眠る場所も選ぶ事が出来ない。寝食に強い執着はないが、仕事をする場所ぐらいは選びたかった。

「次の場所は寒そうだ」

 雲の下は銀世界なのだろう。用意された着替えは、かなりの厚手だった。

 冷たい視線の監視下で飛行機を降りると、笑顔の数人と緊張した顔の大勢に出迎えられた。笑顔の数人が口々に情報を投げて寄越す。一番近くに寄ってきた不愛想な一人に指示を出し、足を止めずにトラックへ乗り込んだ。

 飛行機から、まだ視線を感じる。



 寒い場所、暑い場所、湿っぽい場所、乾いた場所。行き先を決めることは出来なかったが、やることは似たようなものだった。

 消耗品を少なく、可能な限りの結果を出すだけだ。それを最も効率良く、素早く行うだけ。誰でも考えられそうなものだが、消耗品には名前があり、いつか誰かの親であり子供だった。それだけの違いが判断を鈍らせる。時に必要な消耗品は多い。

 気を病むには正常でなくてはいけない。ただ生まれた時から、生まれる以前から正常を疑うようになっては、病む気もなかったのだろう。

 寒い場所は、きっと慣れていた。

「お前は冷蔵庫から産まれたんだ」

 父は、にこやかに言った。

 それが異常だと同時に教えておきながら、何度でも、間違いなく言った。母の事も、楽し気に時に寂しそうに語った。親子三人で過ごした日々は無いが、常に母の影を感じていた。今も、父からの手紙には母の影を感じる。

 よくも、この内容で検閲を抜けて来るものだ、と関心している。

 世間的には立派な父だ、家庭的にも立派な父だ。性格は、いたって紳士的だと思うが自分の子供を冷蔵庫から産出しているので、正気とはかけ離れている。少なくとも言われる子供側からすれば。

 凍えるような土地から、焼け殺されるような土地へ移り、仕事を終えるなり次の仕事を渡される。

 いつまで続くのかは分からない。ただ肉体労働者よりは生存率が高いだけ。消耗品になる時期が違うだけ。見捨てられる時期が違うだけ。効率良く、結果を出していけば時が経っていく。

 何かに追われているようだ。何かが分かってしまうと、何かに食い殺されるのだろうか。なら食われないように逃げなければ。



 久しぶりに湯船に浸かり、贅沢を身に浴びた。

「少しは休みたいんだがな」

 湯船の中から背中を向けた女に声を掛けた。床が濡れているのに高いヒールは不適切だ。せめて脱いでから入ってくれば良いものを。

 タイル越しに見える女は張り付いたような笑顔をしていた。口角を上げて、誰にでも好かれるような表情。人間関係の摩擦を減らすのも笑顔の役目だった。笑顔を敵対行動としか見えなくなった者を除いて。

「休んでも構いませんよ。仕事をしながら」

 矛盾する答えと資料を置いて、女は濡れる前に退室した。

 女の背中を見ながら、シャワーでも浴びせてやれば湯船に連れ込めたかと思ったが、疲弊した体では湯船の縁にもたれかかるのが精一杯だった。

 皮膚がふやける前に、なんとか体を引き上げ、柔らかいタオルで拭き上げた。あまりにもタオルが柔らかいので、その場で眠ってしまおうかと思ったが、背中に突き刺さる視線が許してくれそうにない。

「なんだ? 幼女だけでなく、成人の肌にも興味があるのか?」

 鏡越しに見える顔は見ものだった。

「妙な事を言うな、そんな趣味はない」

 心の中など誰も覗けない。ただ覗いた気になって、予測することは出来る。人間は心を表現する生き物だから。だから、否定している言葉通り幼女趣味が無いことは知っているつもりだった。知っているから冗談になる。

 きっと本人も自覚している。つまらない日常のやり取りが、いかに自分自身を人間として存在させているのかを。

「何人だ?」

 しばらくの沈黙の後、答えた。

「外に六人、諦めろ。俺を含めて、護衛を追い出すことは出来ない」

 以前に出し抜かれて、自称・護衛の監視は処罰を受けた。未だ、根に持っているようだ。街中でアイスを食っただけなんだが。

「なんだ七人か、今回は多いな。だが、それじゃない、一昨日だ」

 青い目は伏せられ、唇を噛んだ。それがとても人間らしい。

「後で、資料が回ってくるだろうさ」

 精一杯の言葉だった。認めたくないのだろう、まだ人間らしい消耗品には気持ちを切り替える時間が足りないらしい。それを分かっていて聞いた。予想していた通りの反応を彼は返し、予想通りの言葉を吐き出した。

 昨日、監視に切り替わる前の仕事。二十三名で行き、六名で戻った。資料は、昨日の内に届いている。

 消耗品には名前があった。

 順番が来たのだと思った。

 まだ濡れた髪をそのままに、沈むベッドに体を任せた。湯船で見つめた次の仕事は、休暇に似ていた。一人の男と、地域のネットワークの監視。指定地域にあるサーバーの拠点を監視することは分かるが、全く関係ないルームメイトを見張る理由が理解できない。男は植物学の学生だった。機械的な監視対象とは全く関係が無い、人間関係に多大な問題を抱える自分には不向きな仕事だ。自覚はある。

 不向きな人間の監視作業、自分でなくても出来るような長期の緩やかな監視作業。

 これは本当に休暇を与えられたのかもしれない。最後の仕事として。

 植物学の学生は幼い頃から監視対象だった。その両親の実績と、幼い頃の毒物事件で処分を待つだけの身だったのだ。彼自身は知らなかっただろう、生活苦の中で必死に勉強をして、今は「世界を平和に出来る植物を作る」ため学生生活をしているようだ。

 そんな学生とサーバーを監視するだけの仕事。

 眠る場所は選べないが、多くの自由を与えられていた。一般人のいる街を自由時歩き回れるなんて、いつ以来だろう。

 きっと、これは最後の自由なのだろう。学生と一緒に、ただ処分されるまでの暇つぶしなのだ。



 ふと、手紙を出しても良いものか迷った。

 所在地など在ってないようなもので、滅多に書かない返事は何度も検閲されて、全く別の住所から送っていた筈だ。

 もうすぐ陽が昇る、学生を監視している自分を更に監視している者を起こしても良い時間だろう。連絡先は知っていた。本人は知らないだろうが。

 重たい、旧型の受話器を持ち上げてダイアルを回す。三度目のコールで出た、無言が返事だった。僅かに伝えてくる様子は混乱だった。

 要件を短く伝えると、長い沈黙の後で「回収しよう」と答えて電話は切られた。

 受話器を置く前に、玄関のガラスに影が差した。金属を擦る不快な音を止めるため、開錠してやった。錆びて重たい音を響かせながら、玄関は開け放たれた。

「おはよう。まだ起きていたのかい?」

 髪に乗った葉っぱを払いながら、学生は毎朝同じことを聞いてくる。

「おはよう、まだ業務中だ。今朝もご機嫌だな」

 昨日と同じ返事をした。

 学生は陽が昇る前に大学へ行き、管理している植物の世話をする。陽が昇る前の作業があるそうだ。

 陽が落ちてから、陽が昇り人々が生活を始めるまでが機械的な監視。日中も他の監視員がいる。

 一日の始まる時間は異なるが、お互いの時間は歯車のように合っていた。

 朝は作業を終えて朝食をとる。それから学生は学業のため再び大学へ向かう、その間に私は床に就く。

 昼に会うことはまずない。

 夜に戻ってきた学生と夕食をとる。それから学生は勉学に勤しんでから床に就く、その間に私は業務を行う。

 そして、また朝が来る。

 いつか自分自身に陽が昇らなくても。

 こんな時間がいつまで続くのだろうか。最初の三か月は堕落した生活を甘美に感じたものだが、今は時間を持て余し監視対象のサーバーに似た別機に攻撃テストを行っている。これも警護の為だと思ってもらいたいところだ。

 蒸留水を珈琲メーカーに仕掛け、珈琲豆を量りとりミルで挽いた。匂いを楽しみながら挽いた豆もセットして珈琲メーカーの電源を入れた。音を立てて水が熱せられる。

「今朝はどんな珈琲なんだい?」

 学生が腕のような大きさのパンを切る。

「どれも同じだと言う奴には教えない。『天使』は元気かい?」

 薄くなったパンをトースターに仕掛け、不平の声を上げた。聞いたところで覚えていないので、教えてやる必要はない。

 天使は学生が世話をしている「世界を平和にできる植物」の愛称だ。教授が付けた。

 狭い食卓につく。温かい珈琲と焼きたてのトースト、先の見えない怠惰。

「元気だとも。君、今朝は川辺を走っていただろう」

 学生が問いかける。

「あぁ、運動不足なんだ」

 私は答えた。学生を監視するのは家の中だけで良かったが、早朝の様子を確認してやっても良いと思ったのだ。運動不足のついでに。

 まさか怠惰を貪るだけで身体から反発されるとは思わなかった。筋肉の異常な痛みで眠れなくなってしまったのだ。肉体労働者に囲まれている間は非力な頭脳労働者としか思っていなかったが、意外に自分も肉体労働者だったということだ。

 移動できる範囲は限られているが、走ることで身体の訴えに応えてやった。

 意外な発見だった。

 温かい珈琲と焼きたてのトーストは、長く続かなかった。

 学生とのルームシェアが終わったのだ。学生の師事する教授が、自宅の離れと温室を彼に与えた。

 学生の口から引っ越しの言葉が出た時、驚いた。

 学生の師事する教授は大昔の論文にすがり、今の論文や成果は学生、彼の成果だとは知っていた。事実が外部に漏れることを心底恐れていることも。

 だが教授には溺愛している愛娘がいるはずだ。彼に好意を寄せている事は、監視カメラと昼の監視員から知っている。どのような意図があるのか、分からなかった。分かることは、彼が引っ越す前に処分が実行されるだろう、ということ。

 予想は外れた。



 彼の引っ越し当日、荷物を教授の家へ運び込み、一人になった部屋へ戻った。

 部屋は荒らされておらず、何もかもが出掛ける前と同じだった。訝しがっていると、呼び鈴が鳴った。玄関は開け放ったままだった。

「声を掛ければいいだろう?」

 紙袋を抱えて、青い目の男は無言で入ってきた。

「何人だ?」

 問いかけに、男は足を止めた。

「一人だ。今日はこれから休みだ」

 勝手に紙袋からサンドイッチを取り出し、食卓へ広げた。どうやら一人分らしい。

 更にタンブラーを取り出して、何度も蓋に指を描けて口を開けるのに失敗する。どうやらタンブラーの開閉に慣れていないらしい。

 何度目かの挑戦で、タンブラーは口を開けた。

 私は自分のカップに湯を注いだ。珈琲の準備をしながら、古い珈琲豆しか残っていない棚に手を入れた。最近は学生の買い物ばかりだった。

「次の指示を持ってきた」

 小さく畳んだメモを置き、男はサンドイッチに噛り付いた。無防備、というよりは私に対する配慮なのだろう。手は塞がっている、今なら何も出来やしない。私が抵抗しても簡単にねじ伏せられるだろう。だから、自分が無防備な姿を見せることで、少しでも私の警戒が薄れるようにしているのだ。

 置かれたメモを拾い上げ、広げた。

「資料は?」

 訊ねても、マヨネーズのまみれの口は答えない。知らないのかもしれない。

 珈琲をカップに注ぐ頃、ようやくサンドイッチを食べ終えた男は独り言のように呟いた。満足げに何度もタンブラーへ口を付けながら。

「後で誰かが持ってくるだろう。サーバー監視の件なら、攻撃者が見つかった」

 サーバーを攻撃する予定だった者、が正しかった。

「近隣の別サーバー担当者だ。金に目が眩んで仕事を請け負ったそうなんだが、担当のサーバーにトラブルが続出してそれどころじゃ無くなった時に依頼者が催促に来たから、命惜しさに自首した」

 いつかの攻撃テストを思い出し、わざとらしく視線を反らした。

「何をした、何を」

 ペーパーナプキンで口元を拭い、紙袋へ放り込んだ。

「面白いこと」

 予想が外れることばかりだ。

 男は仕事を終え、休日へ向かっていった。見知ったはずの男の、その背中を見たのは久しぶりだった。いつもは面と向かって睨みをきかせて、背中など見せなかった。

 残されたパンくずをメモで払い除け、今度こそ一人になった部屋で熱い珈琲に口を付けた。また、引っ越しの準備をしなければならない。三か月後には退去だ。



 ルームシェアを終え、半年も経たない内に学生から四通の手紙が届いた。父の手紙と同様に、何度も検閲を越えた後で。

 まだ学生の監視作業が終わっていないのかと、資料を確認してみた。資料は作った時とタイトルも内容も変わっており、監視対象は教授となっていた。報告が書き換えられることは、よくあることだ。

 だが、学生の手紙でも記録が書き換えられているのか、記憶が置き換わっているのか教授の娘には都合よく情報が伝わっているらしい。学生が住んでいた部屋は、いつの間にか下宿屋で、引っ越した理由も改築で追い出されたことになっていた。手紙越しにも彼が苦笑しているのが分かった。

 教授の嘘なのか、娘は頭の中まで花でいっぱいだったのかは分からない。

 そんな些事が綴られていた。

 資料を書き換えただろう担当官に許可を貰い、手紙越しに学生を監視し続けることになった。

 それから恒常的な仕事が一つ増えた。

 代筆の案も出たが、可能な限り元・監視として勤めようと断った。目を丸くして口を開けた担当官は、珍しく声を上げて笑った。

 後に、この下らないやり取りが正解だったと知った。



 兆候は手紙から感じ取れた。

 学生は「世界を平和にする植物」こと「天使」に疑問を持ち始めていた。「天使」に愛情を注いではいたが、「天使」は「世界を平和にする」目的の手段であり、「天使」から距離を置くことができた。

 異常な植物かもしれない。もし、推測が当たっているようであれば破棄する、と。

 もう一つの兆候は監視カメラに現れた。

 教授の娘の様子がおかしい。学生が「天使」に異常を感じ、扱いを変えた頃から彼女の行動は変わっていった。

 学生の監視に人間が増え、以前から監視をしていた一人が伝えた。

「恋する乙女は恐ろしい」



 学生の処遇に関して、カメラ越しの会議が行われた。

 そもそも処分を待つだけの身である。誰が手に掛けようと同じである。

 優秀な植物学の徒である、異常な植物は環境問題の解決策になる。利用すべき。

 一方、学生の両親に被害を受けている者。一方、現在の外交手段として植物を利用したい者。平行線を辿る会議。

 関係者として傍聴していたが、眠たくなっていた。休憩の為に会議は一時中断した。飲み物を貰おうとパソコンの前から立った時、スーツを乱した男が電話を片手に走ってきた。

「久しぶり」

 電話に耳を寄せると、学生の、彼の声が聞こえた。

 手紙では遅いのだ、と彼は引き攣った声で訴えてきた。既に、天使の異常性は伝えた通りだ、その上で頼みがある。

「『天使』を、アレを処分すべきか迷っている。どうか、どうか、以前のように。昔のように言葉で切り捨てて、僕の気持ちを決めてくれ。たった一言でいいんだ」

 嘆きだった。

 迷っている自分自身を、私に切らせようとしていた。だから、私は応えた。

「待っていろ」

 休憩後に戻ってきた処分派に、激しく叱責されたらしい。



 現場の監視に彼の保護を命じ、飛行機に乗っている間に教授の娘が死亡した。植物の異常性の一つ、夜間の過剰な呼吸。彼が植物を閉じ込めるように作った温室の一角で、教授の娘は酸欠により死亡したようだった。

 彼の予想は的中していた。「天使」は人を殺せるのだと。

 現場の監視と合流し、彼との接触を試みた。しかし、怒りに任せた教授が騒ぎ立てており、巻き込まれる形で彼は身動きが取れなくなっていた。侵入して分かったが、娘の殺害容疑で軟禁状態だった。久しぶりに見た顔は、酷くやつれていた。

 娘を殺害した犯人は見つからず、教授は業を煮やし、自ら彼に毒を盛ることにした。

 盗聴で事前に犯行を知り、利用されてもらった。毒を飲んだフリをして、死体として教授宅から逃げ出すことに成功したのだ。

 死体袋から出た彼は、本当に死体のような顔をしていた。

「やぁ、久しぶりに君の珈琲が飲みたいよ」

 教授宅に珈琲はなかったらしい。



 教授の娘の死亡現場から回収された「天使」と、彼を持ち出した。移動のために乗り込んだ飛行機で、二度目の会議が行われた。

 そこで初めて彼は自分が監視されていたこと、処分の対象だったことを知った。顔色は変わらず土色だったが。何度も小さな画面と私の顔を見比べて、頷き、自分を納得させたようだった。

 彼自身の参加により、会議は利用派に大きく傾いた。

 だが、彼自身は「天使」を処分するように訴えた。教授の娘がその身で証明したと。この「天使」を放つことは出来ないと。

「あなたじゃなくても良い。既に、君の言う『天使』は十分な機能を持っている」

 利用派は処分を一蹴した。後は残った教授が名声の為に「天使」を世に解き放つ。既に舞台から退場した者に、権利など無いのだ。いや、初めから無かったのだ。

 会議は利用派の勝利で終わり、利用された彼は今までと同じ監視下に置かれた。ただ彼がそれを知ってしまった以外は。



 彼の監視が再開され、私から職務が剝ぎ取られた。そして同時に、下請けを命じられた。ある種の抹殺だった。私は、追われていた何かに食われたのかもしれない。



 休日というものがあるのなら、きっと朝は温かい珈琲と焼きたてのトーストで、夜更かしをした君の顔を見るのだろう。

 だが、私には休日というものがない。今朝も、私は彼の笑顔を監視している。