観覧車、横断歩道、カエル
最悪だった。
乗っている観覧車が止まった。しかも、一緒に乗ってるのが男だ。女の子なら仲良くなるチャンスなのにっ。観覧車で二人っきりなんてドラマ状態の最高のシュチュエーションなんだぞ。
しかも、包帯の巻かれた手で器用に携帯ゲーム機で格闘ゲームをしている。遊びに来てまで持ってくるか普通? ありえねぇだろう。最初っから遊園地で遊ぶ気ゼロだろ、こいつ。
「なぁ。暇」
「あとちょっとで倒せそうだから待て」
こういったところが腹立たしい。スゲームカつく。
大体、女の子同士が一緒に乗ったからこいつと一緒になっちまったんだ。他にも男はいるがむさ苦しいし、体重のバランスの関係でこうなった。つか、そいつらの所為(せい)でこの観覧車止まったのかも知んない。やたらと重いからな、あいつら。
そういえば、あいつらの方がきついかも。そうすっとまだましか。
いや、悪いのには変わりない。
「なぁ。いつまで止まってんだと思うよ?」
倒せたのか、飽きたのか知らないが、ゲーム機を片づけた。次には携帯を取り出しメールを打ち始めた。
「知らない。とりあえず降りてお前が動かしてこい」
「滑るわっ!」
チラリと俺を見て溜息をついた。とても残念そうに。
俺に死んでこいってのかこいつは! 窓から落とすぞ。
「ったく! 何なんだよ。俺って超不幸じゃん」
「お前と一緒にいる俺の方が不幸だと思わんのか?」
恨めしそうに上目づかいで携帯越しに見上げてくる。
確かに、一昨日俺がコンビニに誘ったら帰りに車に轢き殺されそうになったけどさ。赤信号無視して横断歩道に突っ込んでくる車が悪いんだ! こいつの包帯はその時のものだ。それに今日は観覧車の停止。確かにちょっとした罪悪感はある。
「それと。そのカエル傘どうにかしろよ。何かあるたびに持ってるだろ? アンラッキーアイテムそれだ」
たかが今日偶然持ってきた傘にそこまで言うかよ。
「一昨日の轢き逃げ寸前も、一週間前の携帯の池ポチャも、十日前のバイクの転倒も…。その憎たらしいほどの緑のカエル傘を持ってただろ? 違うか」
苦笑いで応える。思い出してみると不幸が続きすぎる。このカエル傘を買ってからと時期も合う。しかも段々危険度が増してる気がする。
「次は観覧者落とす気じゃないのか? その傘」
声に応えるようにして、上でギシギシと嫌な音がし始めた。
「まさか……な? はは…は」
緑のカエル頭がニヤリと笑ったように見えた。