完璧彼女を造りましょう

17.「綺麗」







 それからラムダとイオタお嬢様は長期休暇を利用し、私を組み立てました。

 骨の間に軟骨やゲル剤を挟み、関節の可動領域を確かめながら人工筋肉を張り付けてゆき、血管を張り巡らせました。人口の肉と軟骨付きの人体模型の様だ、とラムダは形容しました。私は人体模型のように不細工で男女も分からないような程度ではありませんでしたが。

 ラムダは表皮の無い、皮を剥がれた状態の私のままで起動させようと思っていたそうですが、イオタお嬢様が反対しました。私やファイは痛みに鈍感で、神経がまだ少ないその時の状態も気にならなかったのでしょう。それを知っていてもイオタお嬢様は反対しました。

「表皮が無かったら、服を着てないみたいで可哀想じゃない」

 つまり、イオタお嬢様は私が全裸では可哀想だと言ってくれたのです。

 確かに血管や神経が露出した肉体は何も隠すことが出来ない状態、血管を流れる血液や筋肉の動きも周囲に知れてしまうのです。今はそれがとてつもなく恥ずかしい状態であることが解ります。イオタお嬢様に感謝する日々です。この時、ラムダが反対を押し切って私に表皮を付けなければ悲しい思いをしていた事でしょう。ラムダもイオタお嬢様の反対に負けて表皮を付けました。

 殆ど全身の処理が済んで、頭部だけが開いた状態になっており最後に合成結晶を嵌め込んだ頭蓋骨を調整して下準備は終わりました。

 ラムダが出来る作業はここまでです。

 イオタお嬢様はファイと同じ古代兵器の部品を私の頭部から背骨にかけて乗せていきました。頭と首を繋ぐ最初の骨の上には一つだけ形の違う部品を乗せました。その部品は他の部品よりも黒く、イオタお嬢様によれば表面に一か所だけ突起がある結晶が組み込まれています。結晶の表面は滑らかなのですが、たった一か所だけ窪みの隣に突起があるのだそうです。実際その部品を見た事があるのですが全く分かりませんでした。

 精密な光学測定器にかけてやっと分かる程度の突起を窪みの方へ弾くと、部品は全て連結し、皮膚の上から背骨へ潜り込みました。

 イオタお嬢様が出来るのはここまでです。

 動き出した部品は骨と筋肉の間に潜り込み、人口結晶の中に根の様なものを張り巡らせて、視神経を繋ぎ人工物の臓器へ神経の根を行き渡らせました。最後に頭部に乗せられていた部品が頭蓋骨の形に合わせて溶け、勝手に垂れ下がっていた皮膚を痕も無く縫合して自らを保護しました。

 表皮を全て被り終えた私は全身を痙攣させ、声も無く仰け反ったそうです。

 瞼を開いて眼球を回し、指を一本ずつ動かし、まるで上手く出来たかを確認するように全身を隈なく動かしました。そして膝立ちになり、最後に上半身を脱力させて産声を上げました。

 良く響く声だったそうです。

 産声を上げた私は全ての確認作業を終え、瞼を閉じ、脱力して倒れました。

 私の最初の記憶はここから始まり、闇の中で最初に聞いた声こそがラムダの声でした。

「綺麗」



 これが私の生まれた理由、存在理由です。

 私が生まれた理由、それは確かに愛と呼ぶべきものなのです。他の誰が歪んでいると言っても、私は愛と呼びましょう。

 幾人もの骨、古代兵器、人工物を部品として私は存在しています。私自身は酷く歪なのです。他の動く死体と違い、骨すら不揃いです。ファイのように一人分の材料で造られていません。私以外に私の類似品は存在しません、世界に私は私だけ、他の誰でもない私だけの存在です。ラムダから存在理由を与えられたのは私。

 他の誰にも理解してもらう必要は全くない理由です。

 私が生まれた理由、存在理由。それをラムダやイオタお嬢様、ファイ、ご両親、タウやイェプシロンに訊ねながら私が私となるまでの経緯を確かめる事ができました。しかし、これは今に至るまでの全てではありません。

 私の最後の部品であるプシー嬢の骨を手に入れる前、この頃を教えてくれたタウやイェプシロンの記憶が確かである時期から、私が起動された時までです。

 冒頭の計画通り私が生まれた瞬間までを書き記し、私の記憶の一部として整理する事に成功しました。経験を増やす事が出来たのです。しかも私自身が記憶していない私の経験が他者の記憶から得られ、時系列に並べる事が出来ました。これにはラムダとイオタお嬢様の確かな記憶と記録、ファイの的確な指示があったからです。

 私に関わった全ての方へ感謝を、私はこの日記を書き続けて示します。