鬼蘇死霊学実験

零 はじめに







零 はじめに



 現代、他種族間の交流が多くなり、種族がもつ独自性が失われる傾向が強い。それは同時に平均的な人間族へ近付いているということでもあるが、人間族の幅を広げているともいえよう。本書においては現代の人間族の範囲を見極めると同時に、先人達が行ってきた知識保存と労働代行技術の継承を目的とする。



「知るか、んなこと」

 原稿の冒頭を読み始めて、思わず預かったばかりの紙の束を窓から放り投げようとした所で抑えられた。

「抑えて、カイ君抑えて」

 人の良さそうな垂れ目は、カイを椅子に座り直させた。素直に椅子へ座り直してみたものの、カイは納得できない。

 以前から資料で狭かった部屋は、紙の海を泳がなければ移動もできなくなった。カイは自分の机の周りだけは必死に守り通してきたつもりだったが、今回は片付けることもできない。添削をする書籍の為に集められた資料をかき集め、広げると部屋は直ぐに埋もれてしまった。

 何故、自分に専門書用の用語辞典よりも分厚い紙の束が預けられたのか。預けたのは垂れ目で尊敬できるエータ教員だが、エータに預けたのはコース長のグザイ教員なのか。紙の束を火にくべてやりたいのに提出期限が三日後なのか。グザイ教員の頭部は何一つ隠そうとしていないのにグザイ教員自身は頭部を隠そうとするのか。回答は得られそうにない。

「ほら、原稿の下書きはこれしかないんだから風にでも飛ばされたら探しに行くのも大変だよ? 少し、お茶でも飲んで、落ちついてからやればいいよ」

 エータは立ち上がり隣の実験室に足を向けた。紙に火が移ると危ないから、と笑うエータをカイは制した。代わりに、泳ぐようにして紙の山を抜けながら実験室から湯を運んだ。

「そうですね。通し番号もふってないんですね、下書きって」

 絶対にグザイが意図的に通し番号を入れていないのだ、そうでなければ脳が研究対象と同じく腐敗しきっている。そう思うと、少しだけ気分が良くなった。

 茶葉を盛大に振り撒くエータに代わってカイが紅茶を淹れる。エータが振り撒いた茶葉を掻き集めてごみ箱へ投げ入れた。

「あぁ、落ちつくね。でも、締め切りまで少ししかないから、カイ君も頑張ってね」

 目尻を更に下げてエータはカップに口をつけた。カイも淹れたばかりの紅茶に口を付け、舌を火傷しそうになりながら飲み干した。昨日から味は分からなくなった。

 カップを片付けると、原稿の端を紐でまとめ、全てのページに通し番号をふった。重い荷物を鞄に詰め込んでカイは部屋を出た。

鬼蘇死霊学実験 基礎と応用



‐もくじ‐

零 はじめに

 理論背景



一 鬼蘇死霊学とは

   種族知識の基礎の基礎



鬼蘇死霊学の基礎



二 死霊学の理論

   現代に至るまで

三 死霊学の実験

   過去の代表的な実験例

四 死霊学の応用実験

   歴史に名を残した実験方法



 鬼蘇死霊学の応用



五 鬼蘇死霊学の理論

   死霊学と鬼蘇死霊学の違い

六 鬼蘇死霊学の実験

   近代の代表的な実験例

七 鬼蘇死霊学の応用実験

   有用な実験例と実験方法



八 実践における死霊学

   過去に行われた実践からの教訓

九 実践における鬼蘇死霊学

   現代行うべき実践方法と準備



十 さいごに