レッツ発掘!~題名に意味はありません~

6.瓶詰め魔王





 盗賊団員が床や壁に遊ばれている間にサラ達は逃げおうせた。勿論ネコも途中で合流し、宿に向かった。ネコは身体に刺さったナイフや矢を道中抜き、持って帰り宿の者に不審な目で見られたが口元に指を当てて見せると宿の者は頷いた。内緒にして欲しいと合図しているが、宿の者は金次第で情報を売り渡す一種の情報屋だ信用はしていない。盗賊団がこの宿を突きとめるのにそう時間はかからないだろう。荷物を持って今夜の内に移動しなければならない。

 少ない荷物をまとめ、宿の代金の半分を質素なベットの上に置いて、誰にも見つからないように宿から出た。今夜も丘の上で野宿だ、遅い夕食をどこかで食べて満天の星空の下で眠る。誰も反対しなかった。

 どこで夕食をとるかが問題になったが夜遅くに食事ができる場所は少なく、昨日と同じ店で食べる事にした。運が良ければまたヴァス達と会えるだろう、と笑いながら店の扉をくぐった。



 昨日と同じ店の同じ席にヴァス達は座っていた。自分達が座っていた席に知らない顔が座って泥酔して、ほとんど眠っている様子。まずセシルがサイカ達の入店に気が付いた、知らない顔が眠っている事を確かめてから白い手を振った。それに気付いたヴァスとファーンが酒の入ったカップを持ち上げて呼んだ。昨日程は酔っていない。

 隣の机に座り、適当に食べ物を注文して、椅子の背に抱きつく形でサイカは座り、ヴァスが差し出す皿の上の肉をつまんだ。指に付いた肉汁をなめとり、もう一つ肉をつまんだ。

「ヴァスの知り合いか? 見かけない顔だけど」

「今日知り合いになった。戦士のパステルと魔法使いのゼラニウムだ」

 眠りこけている二人をカップで示しながらヴァスが説明する。友人を作るのが得意なヴァスだ、捕り物を見て気が合ったから酒でも奢らせてくれとでも言われたのだろう。そうやってタダ酒を飲むのも得意だったとサイカとサラは笑った。

「…ふーん。尾行がまけなかったのかニャ?」

 ネコだけは見た覚えがあった、捕り物の後でヴァスの後ろについてきた二人組だった。盗賊団の残りがヴァスの始末に動いたのだと思っていたが、どうやら違ったようだ。しかし、記憶力のトテモ悪いネコはこの二人をどこかで見た覚えがある気がした、今日だけではなく昔どこかで盗賊だと思った、それがいつだったか思い出そうと必死に頭の中を整理した。しかし、料理が机を埋め尽くした頃にはそんな事は忘れていた。

 昨日とは違い、夕方に軽く食べているので大量には注文しなかった。運動の後の食事は無言になり、ガツガツと消費した分以上に摂取して腹を張らせる。今夜は酒はやらない、飲む気になれなかった。

 注文した料理を全て腹に収め椅子に身を委ねたとき、サイカは違和感を覚えた。何だろうと探ってみると先程ネコが発掘した物だった、すっかり存在を忘れて返し忘れていた。フォークを口に咥えて何事か見ているネコに放ると額で受けるわけもなく、上手く右手で捕えた。

「面白くねぇでやんの」

「なんだそれ?」

 サイカがやっていたように椅子の背に腕を掛けて、ヴァスがほろ酔い加減で興味津々に聞いてきた。黙っているがセシルもファーンも何か気になっているようだ。

「瓶詰め魔王だカメ」

 ネコの頭の上に登って決めポーズをとるカメが教えた。



**



「瓶を開けるとアラ不思議! レヴェルが三倍された後に八乗される素晴らしいアイテムニャ。ついでにタガを外して欲望やら知識やらが増幅される副作用付、効果対象は一名様! 貴方も魔王になってみませんかニャ? 只今回収中につき、残り二十六個の限定商品になっておりますニャ」

 土に汚れた瓶を撫でながらニヤニヤ顔で説明するネコ。商品説明をする商人のような言い方で、悪の花道を勧める悪魔は頭に乗ったカメを捕まえ、瓶の上に乗せた。カメは瓶に被せられていた布を外して、蓋をしているコルクに力を込めた。

 ヴァス達の目の前で、キュポンと普通の瓶と変わらぬ音を立てて蓋は外れた。中から煙でも出てくるのかと身を乗り出して覗くが、全く出てくる様子はなかった。ネコが瓶を逆さまにして振ると、白い石が一つ手に転がり出た。手の平で少々転がしてからネコは躊躇わず石を口の中に放り込み嚥下した。もう残っていないかと瓶の口を覗き込むが粉末さえ残っていなかった。

 残念そうにカメからコルクを取ると蓋をして机の上に置いた。

「なんなんだ。その面白アイテムは?」

 セシルが苦笑しながらネコを指差した。レヴェルを三倍した後八乗し、タガを外してしまうような物は面白アイテムらしい。今夜は酒を飲んでいない、シラフの状態でセシルは言いきった。ファーンも頷きネコの言葉を疑わない、いやネコの言葉だからこそ面白アイテム効果が信じられた。ネコが関わる事だ、まともなことではないと。

「平和を感じるためには平和を打ち壊す存在が必要なのだとドコゾの馬鹿が、倒せる敵を欲したんだニャ。その欲望を叶えてやったついでに大量生産した名残だニャ」

「いっぱい瓶に詰めて埋めたんだカメ。流行りの時期は一日に四つも埋めて誰が開けるか楽しみにしてたんだカメ」

「で…大量に魔王が発生して怒られたんだニャ。たまーに思いだしたらこうして掘り返してるわけニャ」

「アレはお前らが原因か!」

 ヴァスが驚いてカップを落としそうになった、慌てて宙で捕え持ち直したが今度は強く握りしめ過ぎて金属のカップに指の跡がクッキリと残ってしまった。しまったとばかり残った中身を飲み干し机の上に置いた、後で謝って弁償しなければと渋い顔をしたが、慌てた原因をしっかりと聞いておこうとネコに問いただした。

「各大陸に魔王が乱立してかなり混乱した時期があったがネコとカメが原因だったのか? 南の方にあった大陸には魔王が五人もいて大変だったんだぞ」

「あれは地震で埋めた地層が表に出てきたからニャ。偶然的必然ニャ」

 自分は悪くないと主張するが、作った者にも埋めた者にも責任があるのだから、その両方のネコが悪くない訳がなかった。

「そんな時期もあったらしいな、私は風の噂で聞いた位しか知らない」

「俺はまだ子供だったからなー。影響はほとんどなかった新月王国に引っ越してたから、町に勇者が来た事もなかったし」

 昔を思い出すファーンは何処か遠い目をする。

戻れない昔に未練はなかったつもりだが、いざ思い出すと懐かしくもう一度手に入れられるのではないかという幻覚に襲われる。現実的にその幻覚に襲われてもいいが、それには十中八九ネコの力を借りなければならない事が分かっている。無性に腹立たしく、借りを作ってからかわれるのが嫌だ。それに、今の自分があるのは昔があったからで、今が嫌いなわけではない。昔に戻れたとして再びセシルは自分を認めてくれるだろうか? いや、それ以前に出会わなかっただろう。

 ならば今が良い。

「俺は打倒魔王組に幾つか参加してたぞ。信者もそれで少し増えたし」

 腕を組んで威張るヴァスに、周りの空気が固まった。カメでさえも持参のカメロンパンを齧るのを一瞬止めてしまったほどだった。

「なんだ? ヴァスはセシルやファーンより年上だったのか」

 意外そうな顔をしてサイカも腕を組んだ。まさかヴァスがそれ程の年齢だとは思っていなかったのだ、若い容姿と言動が全く年齢を感じさせなかったからだ。セシル達もそれを知らなかったようで、驚きにものも言えない。ファーンに至っては口をパクパクと開閉させて魚のように喘いでいる。

「そう考えるとセシル達もまだ若いのニャ? それともヴァスが年寄なのかニャ?」

「ヴァスはもっと若いと思ってたよ~、見かけによらないなぁ」

「姿形に何の意味があるのニャ? 自分の胸に問いかけてみるかニャ、サラ?」

 サラは頬を膨らせて怒ったが、目は笑っていた。