完璧彼女を造りましょう

14.「待ちたくない」







 予想外に手に入った棺桶と棺桶に施されている呪い。そして、プシー嬢の墓から貰い受けた物。ラムダの計画は確実に進行していました。同時に、ラムダの内側で燻り続けていた狂気も鎮火できない程に成長していました。狂気と他人は言いますが、ほんの少しだけ変わっているだけです。心を傾ける対象が少々変わっているだけ、生きている者と生きていた者、その程度の差でしかありません。

 棺桶を離れ、箱を開錠し、プシー嬢の墓から貰い受けた物を丁寧に取り出しました。自分が収めた物ですが、開ける瞬間はときめいたそうです。

 白い手の中にあったのは黒くくすんだ顎の骨でした。

 まだ肉と歯が残る骨。ラムダは笑いました、想像していた通りの骨だったのです。顎の寸法を測り、重さを量り取ると、ガラスケースで待たせていた私を抱きしめプシー嬢の顎と見比べました。そして私を特等席に戻し、プシー嬢の骨だけを持って洗浄部屋に下りました。

 洗浄部屋でプシー嬢の骨は綺麗に処理されるのです。

 骨やご両親のお土産を綺麗にする洗浄部屋はとても綺麗な部屋で、上手く動作が出来ない私は未だ入れません。繊細なガラス器具や保管している物を壊してしまうので、私が満足できる動作にならなければ入りません。

 ラムダに聞くと、骨は煮込まれ、粘性の液体に浸されてから目的に合わせて更に処理をされるそうです。

 プシー嬢の顎の場合、骨が細かった為、厚みを持たせた上で削り他の骨と合わせられました。ラムダがこれまで集めてきた私の為の骨と同じように。プシー嬢の顎で丁度人間一人分の骨が集まりました。

 全ては私の為の骨です。

 最初にラムダが愛した頭蓋骨、ベータ二六.九八、私の為に他の全ての骨は揃えられたのです。合法、非合法を問わず、私の骨はラムダが私の頭蓋骨から予想して選ばれた特別な存在です。

「もう少しだけ、待って」

 洗浄用の溶液に顎の骨を浸し、ゆっくりと沈んでいく骨に語りかけました。応えるかのように容器の底へ辿り着いた骨は微かに揺れました。

 本当ならば、ラムダは余分な肉が解けて骨だけになる様を見つめていたかったのですが、私の準備に必要なものを揃えなければいけませんでした。骨だけでは不十分なのです。

 ラムダが準備していたのは骨と骨を加工する術、骨を繋ぐ為の人工筋肉と関節と軟骨、遺跡探索のお土産でありイオタお嬢様が修復した古代兵器の部品、脳髄の代用品となる合成結晶等です。理論的には動かせるだけの部品が揃っていました。

 それだけでは不十分だと、国家が誇る最高機関が証明していました。この頃、公式に作動していた古代兵器はファイだけだったのです。

 最高の機関で、最高の道具と時間と給料を与えられても部品だけでは起動しなかったのです。最高ではないにしろ、ラムダがご両親の設備を利用し、学業の合間を縫って長い時間をかけて準備しても、たった一つが足りないだけで起動しない事は良く分かっていました。同時に、起動する方法も。その一つの為には時間が必要でした。

「もう少し、待てる?」

 自分に問いかけて、ラムダは大分悩みました。準備は確実に整いつつあります。後はたった一つだけ、それはラムダの意思だけではどうにもなりません。時間だけが解決してくれる問題でした。

 もう学期末です。学業の一区切りがつく時期です。学生には長期の休みが訪れ、学業からの解放により自由な時を過ごせる時期です。それを待てるのか、とラムダは問いかけていました。内心、無理だとは分かりきっていました。それでも我慢しなければならない、ラムダにとって苦しい時間の始まりです。

「待ちたくない」

 ラムダの本心でしたが、ただの願望で終わる事は理解していました。

 最後の問題に胸を痛めるよりも、目の前に迫る現実問題を解決するためにラムダは解剖学の必携図書をめくり、実技試験の予習を始めました。マンドラゴラの悲鳴で倒れた教師が今月中に戻って来ない場合、筆記試験から実技試験に変更されます。筆記試験は試験を作成する者がいなければ出来ません。その点、実技試験は材料を準備すれば後は監督するだけです。正確には講義試験の監督者の趣味です。

 それはラムダにとって都合の良い事でした。

 実技試験は終了次第退席が許されています。そして、解剖学の実技試験が学期最後の試験、終われば自由な時間が訪れるのです。

 寝息を立てる友人の隣で、静かにページをめくりました。