レッツ採掘!~題名に意味はありません~

3.一攫千金の冒険者



「彼女が着ている鎧の胸部がその鉱脈から採れたものを加工したものです。この地域でしか採れない金属で高値だと認識しています」  要するに、この上質の金属を取りに行くのにヴァスの力が欲しかったのだ。

「そんな事か? それは俺の仕事には聞こえないが」

 ヴァスが憤りを口にした。それくらい自分の力に自信を持っているのだろう。それが鉱夫のような扱いを受けたのだ、プライドが傷ついてもしょうがない。

「単なる肉体労働の為に、貴方のように強い方は選びませんよ」

 眼鏡は大きく首を振った。

 ヴァスの力が欲しいのは他の理由だ。力がなければ、全くこの鉱脈では採掘ができない。

「その鉱脈付近で大きな門があるんですよ。正確には木製で閉じています。鉱脈が細々と続いているその先を塞いでいるんです。その門を越えれば大量に採掘ができるはずなんですよ」

「はず?」

 ファーンが眉をしかめた。不確かな情報で動く気はないらしい。それもそうだ、昨日会ったばかりの相手を信用できるのは余程のお人好しか、自分の腕に絶対の自信を持つ者だけだ。

「えぇ、まだ門の向こう側に行けていないのが現状です。しかし、周辺の地図と火山活動、隆起の仕方、周りの産出量から見てある確立は高いです。全くないということは無いでしょう」

 くどくどと長ったらしく言うのが眼鏡の特徴だ。しかも、遠回しにはっきりと言わないのだ。

 眼鏡は、いつも持ち歩いている厚い本の間からいくつかの紙を取り出した。それすらも厚みがあって重そうだ。

「よく調べたなこれだけの量を」

 少々呆れ気味に、眼鏡がまとめた資料をファーンが受け取る。

「褒め言葉と取っておきます。それで問題は門なんですが、魔法がかかってます。これは試しました」

 大金になる鉱脈をできるだけ少ない人数で分けたいのは当然の心理だ。しかし、それができないから人材を探していたのだ。単に小銭を稼ぎたいだけなら、地主にでも情報を売ればいい。だが、小銭ではなく大金を冒険者達は手に入れたい。だからこそ冒険に出る。

「火炎魔法も掛けましたし、持てる限りの魔法を使いましたが全く役に立ちませんでした。当たる直前に掻き消えてしまうんです。でも素手なら触れるんです」

 そう、偶然私が腹立たしさのあまり木で出来たそれを殴ったのだ。すると、いとも簡単に触れることができ多少なりとも凹みを作る事ができたのだ。私の力ではそれが精一杯で、眼鏡など話にならなかった。

「そこでヴァスさんに目を付けたわけです」

 妙に神妙な面持ちになったヴァスが腕を組んで頷いた。

「扉の大きさと、あれば模様を教えてくれ」

 ファーンが見ていた紙の一枚を引き抜き、ヴァスに渡した。



**



「できれば直ぐにでも出発したいな」

 眼鏡がしっかりと写し取っていた門の模様を確認して直ぐ、ヴァスは言った。少々興奮した様子で、手元に残しておいたカップの残りを飲み干して机に叩きつけた。

「しかし、君の着ているプレートの材料と言っていたが、それはどうやって手に入れたんだ?」

 ヴァスのカップに氷と水を入れつつ、セシルが訝しげに聞いてくる。こいつはまだ信用していないというのだろうか。なんてしぶとい。

「これは近くで採掘した分と、門を叩いた時の反動で落ちてきたんです。だから胸の部分しかできなくて…」

「正確に言うと、何故か門の上に乗っていました。鳥の類が運ぼうとしたのか、意図的に乗せたのに取れなくなったのかは知りませんが」

 魔法使いが使役しているものに運ばせようとしたのだろうと、眼鏡は推測している。門の魔法で金属を持ったままでは出られないようにしているのだろうと。

 それにしても、誰も私のように落とせなかったのだろうか? 私のように腹が立って叩いてしまいそうなのに…。

 それを聞いたファーンが手を出してきた。

「はい?」

 握手? な訳もなく、私の握力を確かめたいのだろう。それにしても手袋を付けたまま無言で…。せめて私に何か言って。それとも今朝私の可愛らしさにメロメロのままで触れるのは恥ずかしいのかしら? 

「えっはい」

 手袋越しに手の大きさを感じつつ、少しずつ力を込める。

「…もういい」

 満足したのか、私の手を解いた。その後、手を軽く振った。

 …私を怪力女と呼ばないでね。



**



「馬ならここから一日かからない程度なので、それほど食料はいらないでしょう」

 酒場から出てマーケットに買い物に散った。長期間保存のきく食糧をセシルが買おうとしていたので、眼鏡がそれとなく止めた。エライぞ眼鏡! 長期間保存のきく食糧は保存食だけあって味が悪い。食べられないわけではないが、はっきり言って単調でおいしくないのだ。日にちがかからないから、味がマシな食糧にしましょう。と暗に言っているのだ。

「そうだったな」

 そう言って数日程度しかもたないが味の良い食糧と、長期間保存のきく食糧の両方を買いこんでいた。

 そういえば、採掘したり運搬したりするのに道具がいるけど、それはどうするのかしら? それとなく、色々な道具を売っている雑貨店を覗いてみるとファーンがいた。

「あのぅ道具は何を持って行くんですか?」

 店主と話をしていたファーンに訊ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「それならヴァスが手配しているだろ?」

「え?」

 じゃあなんでこんな所に? と眉を寄せていると、店主が幾つかの軟膏を入れるような容器を持ってきた。

「それは?」

「日焼け止めだよ。嬢チャンも一つどう?」

 首を横に振った。

 日焼けなんて気にしてる余裕なんて今更ないのよ。小麦色の天使が日焼け止めなんて冗談じゃないでしょ! それとも色黒だとでも云いたいのこのオヤジ!

 ではなくて! もしかしてファーンの買い物ってこれ?

「じゃあコレを五つ六つとさっきの分を」

 えぇぇマジ! もしかして日焼けなんて気にするのこの人? 嘘! 冗談でしょ、まさかその肌の白さは日焼け止めの効果なんていわないで、お願いだから!

「…やっぱ変か?」

 …変だと云えたらどれだけ楽か。

「いぃええぇ! や、色の白い人って憧れますぅ」

 苦しい言い訳にもファーンは笑ってくれた。



「おい準備できたぞ、野郎共!」

 山賊みたいな掛け声をかけたのはヴァスだった。雑貨店で買い物を済ませ店を出ようとしていたら、出入り口で仁王立ちしたヴァスが待っていたのだ。どこのガキ大将? どこの親分? 流石脳みそ筋肉。そして何故隣に汗だくの眼鏡がいるのだ?

「ちゃんとホロも付いてるから安心しろよ!」

 日陰のホロはこの乙女の為? それとも色白日焼け止め剣士の為?

「俺に付いてこないと置いていくぞオラー!」

「えっちょっ」

 突然人ゴミを走りだした永遠の少年は、隣にいた眼鏡を引っ掴んで鬼ごっこでもしているかのようだ。

 人ゴミが勝手に分かれる。置いていかれても左右の人垣で何故か道が分かるという、不思議な現象に驚愕しつつも、道が崩れないうちにヴァスを追いかける。左右からの奇妙な視線を無視するにも走らなければならなかった。



**



「ウゥオラー! 連れて来たぞー!」

 町のはずれ、馬などが繋げられている場所にたどり着いたとき、汗が滝になっていた。こんなことなら鎧を脱いでおくのだったと、もの凄く後悔したが、それも後の祭りだ。しかも、これから町の外に出るのだから、中は蒸し風呂状態でも鎧を脱ぐわけにもいかなかった。

「ご苦労。しかし走って来る必要は無かった気がするが」

 先に馬車の準備を手伝っていたのだろうセシルが、涼しそうな顔でこちらに水を差し出した。顔といっても鼻から下しか伺えない。その汗一つない顔に無性に腹がたったが、水を差しだしてくれていることで帳消しにしよう。というか、何もする元気がなかった。

 それに、私に比べて汗一つないファーン。鎧を着ていないといっても、同じだけ走ったのに。これが体力差ってやつだろうか。

「なんの! 走った方が歩くより速い」

 正しいが! 正しいがっ! こっちの身にもなれ、この筋肉馬鹿!黙って拳を強く握りしめた。



***



 眼鏡と私は馬車の荷台に放り込まれ、馬車は馬の嘶きと共に走り出した。ホロ付きのおかげで荷台は影となり涼しい。前の部分を上げているので風がよく通った。

 前ではセシルが手綱を握っている。隣でヴァスが鼻歌を歌いながらセシルの邪魔をしている。

 ファーンは私達と同じ荷台の影で、顔やら手やらに日焼け止めの軟膏を塗っている。それを目にとめたのか眼鏡が、驚いた。

「何を塗っているんですか?」

「日焼け止め。昼の盛りに動くとなると辛いからな」

 眼鏡は目を丸くしてそれ以上何も言わなくなった。

 同じ男としてショックだったのか、それとも自分が勝手に作っていたキャラクターが壊れたのか。どちらだろうか。

 そういえばセシルのアレも、日焼け対策なのだろうか? 見える部分はかなり限られるが、セシルも色が白い。軟弱な奴。そこまで色白が良いのだろうか。

 確かに、白いって羨ましいが、そこまでして守り通したいものなのだろうか? でもファーンの白さは向こうが透けてしまいそうな程だ。それは守って良い。やっぱりカッコイイは特権だ。

「ぉい! 正確な場所を教えてくれ」

 前の方からお呼びがかかった。地図で位置を確認していても、行ったことがある者が確かめた方が良い。これに眼鏡がのっそりと揺れる馬車の中を移動し始めた。

 途中でコケレバ面白いのだが、転びもしなかった。