レッツ採掘!~題名に意味はありません~

7.苦がなければ楽もない





「だからっ半々なんてケチくさい事言ってんじゃないわよ。ロリコンの上にホモ! どケチのストーカー」

「誰がロリコンでホモだ。これでもこっちが譲歩してやってるんだ」

 坂の下で頭を砕かれたいた透明を門の手前にまで引きずりながら、ロリホモと冷静に交渉していた。銀ぴか達もが金属の塊だったのだから、この透明も何らかの鉱物であるかもしれない。これだけの大きさだ安い水晶でも持って帰るだけの価値はある。砕けた破片も一緒に布の上に乗せてロリホモと一緒に引きずりながら、門の手前でキャンプを張っている皆のもとに帰る。

 重傷に見えていた者達も、回復を最優先していたロリホモの部隊は幸いにも死者はいなかったらしい。動かない者は極力襲われていなかったらしく、動く者を仕留めてから食べるようにされていたのかもしれない。まぁあの状況じゃ動いているセシル達を先になんとかしないと銀ぴか達がもっと早く全滅していたのだろうが。

 最初は脅されていたといえ、このロリホモ達とは腐れ縁みたいなものになりつつあるから見知った顔が幾つもある。血まみれで泥まみれだけど、生きていると実感している奴らばかりだ。少ないながらも残った回復魔法で仲間を癒していく僧侶と司祭、その数が全く足りていない。持ちこんでいた薬や包帯の数も不足しているようだ。自分の袖を破いて、それで止血をしている者も多い。かくいう私はまだ傷口が血で固まった程度。町で作っていた胸のプレートにも新品なのに傷がたくさんある。残念だが命には代えられないから仕方がないと諦めた。

「聞いてよ! このロリホモのストーカーが半々で分けるって言うのよ! なんとか言ってやってよ」

 セシルに傷を癒してもらっていた眼鏡に愚痴った。こういった交渉は眼鏡の役目だ、今日はもうちょっと頑張ってもらうとしよう。ただもうすでにくたびれている眼鏡を酷使するのは、ホンのちょっと気が引ける。

「有難うございます。セシルさん、まだ回復魔法は残ってますか?」

 セシルはゼラニウムへの癒しを中断して、少し考え込み自分の身体と相談してから頷いた。

「ヴァスさん。荷台に薬はどれだけ残ってます? あなたの回復魔法も」

 地べたに座り込んで自分の回復をしていたヴァスは、直ぐ後ろの荷台に頭を突っ込んで数を数えた後に大きく両手で丸を作った。

「まぁまぁあるぞ。あと俺の回復は肉体活性系だからな」

 回復魔法でも僧兵のものは肉体に働きかけて再生力を高めて、どちらかというと自己回復に近いものだ。他の回復魔法は祈りを捧げて神の奇跡を呼ぶもの、周りから治癒の力を得るものがある。自己回復は戦士など元々体力があるものにかけると効率が良い、ヴァスはその事を伝えたいのだ。

「ではコルスト、こうしませんか? こちらは予備の薬と回復魔法がありますから、それを正当な値段でかけて差し上げます。どうです」

 仲間の怪我を有料で直してやろうと言うのだ。勿論、正当な値段といっても、正当な値段が元々高くぼったくりのようなものだから損は無い。正々堂々とふっかけているのだ。

「なんだと。お前ら自分の立場が分かっているのか? 最初に脅されてたのはお前らだぞ」

 最初は最初だ。だから次はお前らだストーカー共。

「だから何か? こちらはそこで転がってる金属を倒すのに大分貢献しましたよ。その数で数えますか? しかも最後の一匹に解呪をかけて、更に倒したのはこっちですよ? そちらさんは負傷者が大量じゃないですか。こっちは善意で言っているのですよ。運搬の準備はそちらがしてくれてますし、まぁ半々から命の値段交渉といきますか?」

 重要な作業のほとんどをこちらがしているのだから半々なんて馬鹿げている。いくら人数が多いからって役に立たなきゃ意味がないのよ。まぁ採掘の手間が省けて、しかも運搬の手筈がされているのだから、多少は譲ってあげよう。私って可愛くって優しいから。

「まぁまぁ御三方。ここは俺の顔を立てて、仲良くしよう。そんなモンは飲んだ後で良いじゃないか? なぁ」

 交渉に割り込んできたヴァスが、いがみ合う私達を引き離す。まぁヴァスが言うのも一理あるし、今は先に回復しといてから後から請求してやるんだから。ちゃんと紙面にまとめて渡してあげるわ。

 しょうがなく納得した私達を見てヴァスがニッカリと笑った。

* *

 出来るだけ多くの人数を効率良く回復させる為、重傷者を先に回復させて、残る者を傷が深い順にちまちまと回復させていく。特に傷が深いのが前に立って戦っていた剣士たちだった。変形した鎧を剥がして、血が服について乾き離れなくなる前に大きな傷を塞ぐ。大きな傷を塞いでしまうと、元々丈夫な体が求められる戦士達だ、後は自分の体でなんとかしてしまう。

 そういった戦士達にはヴァスが回復を担当した。自分の肉体強化と最後の解呪以外に魔法を使っていないので、戦士達の多くを回復できた。肉体強化は魔法かどうか怪しいと思っている、あれは一時的に自分を興奮させて肉体の限界を外すものではないだろうか。

 残りの重傷者はセシルが回復させた。セシルに至っては両手剣を振り回していただけで、全く魔法を使っていないから数多くの者を回復させていた。流石、聖戦士様と僧兵様ね。それに、ロリホモの部下もそれなりに仲間を回復させていたから一応、怪我人全員を回復させられた。それに何故かロリホモとガスも含まれる。

「あら、随分元気だと思ってたけど…」

 ロリホモにヴァスが回復魔法をかけているのを見かけてからかってやろうと隣りに座った。私は疲労は多いが傷はそれほど大したことはない。盾を常に持っていたことと、胸部のプレートが良かったこと、それに何より可愛かったから狙われなかったこと、これが大きな理由。

「うるさい。かなりの数を仕留めた証拠だ」

 鎧を自分でなんとか外して傷をヴァスに示す。

 変形しているというか、もう部分的に無くなっている。肩の部分を外すときは楽そうだった。繋ぎの薄皮が何とかくっついているだけだったからだ。籠手も大きく爪痕が残っており外して置いた拍子にばらばらになった。乱戦だったのだ、どこが最前線というわけでもないが、このロリホモは常に銀ぴかに立ち向かっていたのだ鎧の原型があるだけでも凄い。それに細かな傷が多いが深い傷がほとんどない、避け方が上手いのだ。

「顔に引っ掻き傷付けてもらってればハクがついたかもよ?」

 ロリホモはムスッとした。



 薬の瓶を持ってきた眼鏡が私の隣りに座った。それから手を出すようにと手の平を突き出した。渋々籠手を外して手を出す。手首を軽く握って逃がさないようにして手袋をおもむろに引き剥がす。汗と血で濡れたそれを手加減して外そうなんて気はさらさらないのだ。乱暴に剥がされて痛かった、しかし手袋が剥がされて可愛らしい手を見た途端、更に痛くなった。

 爪が真っ赤だ。手の甲から流れた血が手袋の先で固まっていたらしく、爪が血に染まっていた。指や他の部分は汗で血が取れてしまったらしく爪だけにこびりついていた。その爪もまだらに付いた血で自分のものながら気色悪かった。爪だけで済んでよかった、手袋全体に血が行き渡っていたなら、手袋を外せなかったかもしれなかったから。

 幸いにも手首から先の傷は甲のものだけで他の傷は大した事はない打撲だけだった。手首から上も袖が破れて包帯にもならないこと以外深い傷はないが、眼鏡は薬をびしばし塗っていった。他の部分も服が破れているが異性の眼鏡に塗ってほしくないから断り、両腕だけにしてもらった。だが、最後に眼鏡が私の頬を両手で挟み薬をたっぷりと塗っていった、御蔭でベタベタする。小さい虫なら捕まえられそう。

「相変わらず妬ける女房っぷりだなゼラニウム?」

 隠れもせずに見ていたロリホモが嫌味たっぷりに笑う。こいつの傷口を引っ掻いてやろうかしら。今なら塞がったばかりの傷口が開いて激痛が味あわせてやれるのだ、少しは考えたまえロリコンでホモ野郎。

「この請求書を見てもそれが言えますか? コルスト」

 小さな文字が綺麗に整列した紙からロリホモは目を背ける。見たくないらしい。それはそうだ、几帳面に書かれたそれは、どの職業者にどれだけ魔法を使ったかを懇切丁寧に記載されている。しかも一枚ではない。

「かなりの額になりますよ。これをあなた方の取り分から引かせてもらいますからね」

 眼鏡がちょっと怖かった。

「まだそんなこと言っているのか。まぁそういった交渉は酒の後にしてくれ。その後に分けてくれよ?」

 苦笑いをしているヴァスが手を振った。回復魔法をかけるのも一段落したし、もう、かける余力もないのだろう。

 ぐうぅぅっ

 誰かのお腹が鳴った。誰の? 皆疲れてるし、自分のお腹が鳴っても自覚がないのだろう、それ位疲れている。そして、私も急にお腹が空いてきた。今度は誰のか分かった、

 ぐぅぅぅっ

自分のだった。

 押さえてみたけど効果はない。あれだけ動き回ったし神経もすり減らした。山の中なので今が何時なのかも分からない。分かったらもっとお腹が空くかもしれない。でも、取りあえず、昼食は食べ逃したのは分かる。山に入ったのが朝食後で、その後かなりの時間が経っているし、回復をしていたからもう夜まで時間がないのではないだろうか。火の用意はコルスト達がしているとして、食糧はどうだろうか。多分採掘しながら町を往復する予定だっただろうからそんなに持ってきていないハズだろうし、下手をすれば現地調達の分が多い。今日は調達してないことうけあいだし、こっちの出せる食糧なんてたかが知れている。

 誰か新鮮な生肉とかを大量に手に入れてきてくれないかしら。そうじゃなきゃ今夜の食事は悲しいものになっちゃう。

「ヴァース! 手伝え」

 遠くでファーンの声がした、ヴァスを呼んでいる。それに応えてヴァスが立ち上がり面倒そうに向った。

「どこ行ってたんだよ? 一人で飯でも食って…おおおぉっ」

 突然立ち止ったかと思うと、今度は猛然と走りだした。

 一体何事かと立ち上がり土を払ってヴァスの後を追った。急いでもいなかったし、そんな元気もなかったのでゆっくりと走って行くと、とんでもないモノをヴァスが運んでいた。

「どこにそんなモンがあったのよ!」

 大きな包みを二つ両手に持つヴァスがニッコリと笑っている。中身は何だ? どこから手に入れた? なんで笑ってる? 色々と聞きたいが、その前にヴァスが片方の包みを開いた。中から転がり出たのは茶色い肉の塊。燻製だろうか? それが包みいっぱいに入っている。

「どうしたのヴァス! 夕食?」

 もう何処から手に入れたのかは聞くまい。理性より本能が勝つタイプなのだ、今はこの空腹を満たせれば良い! 後でお腹を壊しても今が良いならイイ! でも、毒とかは嫌だ。

 私の後をノソノソとストーカーのロリホモが付いてきて驚いた。

「どうしたんだソレ」

「ファーンが盗賊の所から失敬してきたらしい」

 そうか、姿が見えないと思ったらこんな物を取りに行っていたのか。昨日盗賊を追いかけていったのはファーンだった、アジトを知って、食糧庫を荒らしてきたのだろう。なんて素晴らしい! 所で当の本人は? 声はしたけど姿は見てないのよね。

「来たんなら手伝え」

 急に背後から声がした。近い。思わず剣に手をかけていた。それはロリホモも同じだった。心臓に悪い!

 突然背後から、しかも直ぐ近くで声がしたら知った声でも警戒してしまう。疲れた体に鞭打つのは止めてほしい、ただでさえも疲れて動きたくないのだから。

「なんだよ…ほらこれ持てよ」

 驚かせたことがよく分かっていないらしく、急に剣に手をかけ振り向かれてびっくりしている。ファーンほどの剣士が分からないのだろうか。それとも、そんな元気が残っていないと思われていたのか。どれでもいい、もう動く気力が尽きた。

 それでもファーンの渡してきたものを受け取らないと食べさせてもらえないかもしれないと思うと、受け取るしかなかった。

 それも肉の塊かと思ったが以外に軽かった。ちょっと萎びているが野菜だった。どうやら昨日の盗賊団は自炊をして長く山で暮らしているようだ。それとも昨日、食料を調達してきたばかりだったとか? ありえない話ではない。

 私達を襲ったばかりに金品を奪うどころか、逆に奪われて更に食糧まで盗られてすっからかん。可哀想だけど自業自得だし、丁度好いから気にしない。これで夕食の心配がなくなったんだから。



 盗賊団は本当に食料を調達してきたばかりらしかった。葉物の野菜がちょっと萎びているだけで後は痛んでいなかった。肉の燻製は、かなり蓄えていてロリホモの部下達を喜ばせるには十分だった。ロリホモの部下達も食料を持ち込んでいたが、やはり現地調達をするはずで今日の分が少なかったらしい。

どうせ盗賊団から失敬したものだからとファーンが気前よく分けてしまった。それも取り分で計算したかった眼鏡だが、こればかりはしょうがないと諦めてしまった。

 肉や野菜も喜ばれたが、最も喜ばれたのは酒だった。瓶に入った物もあったが、樽に入った物が多かった。瓶に入った物の数が少ない理由は知っていたがあえて言うまい、昨日ファーンが飲んだなんてのは。樽に入った物を運ぶのに馬車を使い、途中からトロッコと馬車に分けて運んだ。朝は敵だったが、夕方には手分けして酒を運ぶほどの仲になってしまった。

「セシル~、酒の前に料理の腕前を披露してやってくれ」

 ねだる様にヴァスがセシルに寄った。そんなにセシルの料理が食べたいのだろうか。確かにセシルが作ると美味しいけど、そんなのロリホモの手下達にやらせればいい。毒を入れられるのを警戒しているのだろうか。抜け目がないな、それならしょうがない。

「あぁいいぞ」

 安請け合いするセシルも上機嫌だ。剣を振り回してた時から上機嫌のような気がする。気のせいだろうか。そうだ、気のせいにしておかなければ、笑いながら両手剣をぶん回すセシルの想像図は恐ろしい。今日かなりそれで助けられたけど、思い出してみるとなんか怖い。今更ながらセシルに畏敬の念を持った。

* *

 自分達の鍋では当然足りないので、ロリホモ達の大きな鍋を使ってまだ余力がある数人で料理を開始した。もうご飯が出来るまで動かないと決めたのに、近くの湧水の場所まで水を汲みに行かされた。確かに他が動けないのは知ってるけど、食糧を運んで更に水汲みは酷い。

 こんなカ弱い乙女がなんでこんな酷い目に遭わなければいけない? まだヴァスの薪拾いにでも付いていった方が楽だっただろうか。いやあの無限の動力を持っている脳みそ筋肉に付いて行けるか。今頃は、山を駆けまわっている。必要もないのに駆けまわっているのだ。ロリホモ達も昨日の薪が残っていると言っていたのに、足りないだろうと拾いに行くなんて本当に馬鹿だ。

 これだけの人数がいるんだから、そんなに薪もいらないのに。全く何を考えているのか分からない。

 重い足取りで戻ると、薪を抱えて戻ったヴァスが既にいた。私より先に出ているとはいえ早くもそんなに拾って帰ってきたのか。本当に脳みそ筋肉、疲れを知らないのか。

「おっ水汲みかパステル。御疲れ」

 拾ってきた薪を置くと酒瓶を手にして座り込んだ。良く見ると汗だくで顔色も赤いが、目の下が少し黒い。疲労の色が隠しきれない。ヴァスも疲れているのだ、それでも皆がへばってるから頑張ってるのだ。急に糸が切れた人形のように倒れてしまうのではないだろうかと少々不安になる。本人は気にしてないみたいだけど。

「うん。ヴァスも御疲れ様」

 本当に一番疲れたのはヴァスじゃないだろうか。素手で銀ぴか共を打倒し、透明の呪詛を解き、怪我人を癒して回った。まともな体力では今頃倒れているのはヴァスだったのだ。それにセシルもだ、あの両手剣を振り回すのだって体力がいるし、怪我人を癒していたのも同じだ、今も小気味良い音で野菜を刻んでいるその姿が羨ましくなった。

 私には無理だ。そんな体力ないし、気力も銀ぴか達を倒したときにもう無くしていた。格が違うってこういうことだろうか。職業とか、そんなものじゃなくて、基本的な何かが違うのだろうか? もしかして人間じゃないとか? 人間離れしているように見えるのはその所為なのだろうか、セシルの今も隠されている素顔は人間外の特徴があるのかもしれない。そんな、人間外がうろつくなんて今の時代は当たり前だろうに、非友好的な者なのだろうか? それなら説明もつくし、今も素顔をさらそうとしない理由も。顔を隠したまま調理は大変だろうに。



 大鍋から立ち上る湯気に思わずお腹が鳴る、唾を飲み込む。もうそろそろ空腹の味付けも最高潮、これ以上待つとお腹は空いていても、空腹が勝手に満たされてしまう。ガシャガシャと大量の食器が出されて、それに大鍋からスープがすくい入れられる。大所帯だと食器の数が山だなと感心する余裕もなく、食器を手に大鍋までの列に並んだ。近付くにつれて匂いが強くなり頬がゆるむ。

 渡しては大鍋からスープのようなものがつがれる。

 萎びた野菜だったのが立派にスープに昇格していた。今日のスープは底が見えるほど澄んでいる、煮る時間が少なかったのか、いや十分にあったから今日はサラサラなスープだ。

 列は大鍋の前を通り過ぎてそのまま流れて行く、どこに行くのかと付いていってみると燻製になった肉が温められソースに飾られていた。それに目を奪われていると横から薄く切られた固いパンが皿ごと出てきて驚いた。スープ皿を皿の上に乗せて進み肉をパンの上に乗せてもらった。ついでに乗せられた野菜炒めは失敗したのか焦げがあった。

 いつもロリホモ達はこんな事をしているのだろうか? こんな大所帯になること自体は少ないだろうし、小隊を組んで移動しそれぞれに任せてあるのだろうと想像がつく。なんせパンの厚さが変わってきているから、というか斜めに切られていて右端と左端の厚さが違っている。セシルの仕業ではない、夕べも今朝もセシルが切っていたが厚さはほとんど同じだった。

 とりあえず、今は食べられたら厚さがまちまちでも気にしない。

 列の先が散り散りになり、皆適当にそこら辺で食べているが一部は怪我人に渡して自分達の分を取りに再び列に並ぶ。なんて健気な方々、私は適当に座れる場所を見つけると立派になった野菜達を褒めるべくスープ皿を口に当てて傾けた。

 これはセシルの仕業だ。疲れて固形物を受け付けにくい身体に沁み渡る味だ、底が見えるほど澄んでいて飲みやすい。もう飲み物感覚でいくらでもいけそうだ。危なく一気に飲み干す所だったスープを残し皿に引っ掛かっていた野菜を取って食べる。本当に、立派になったわね! 萎びてた野菜とは思えないくらいに美味しいじゃない!

 残りを飲み干して、次はついでに乗せられた野菜の炒め物を頂く。やっぱり焦げた味がする、でも焦げを除けば薄味だがいける。きっとお肉と合うんだと一緒にパンに乗せて、大きく口を開けて一口。肉汁が口の中に広がりトロリとしたソースと絡み合って野菜に味付けする。固いパンが妙な触感のアクセントになって、この時ばかりは固さを味わう、それが段々と柔らかくなり飲み込んだ時には全てを連れ去ってお腹に収まる。大活躍のパンも斜めに切られたことを忘れている様だ。

「旨そうに食ってるじゃないか。パステル」

 ついでにロリホモの存在すら忘れさせてくれないだろうか。

 仲間で集まって食べてればいいモノを何故私の近くに座る。私がそんなに可愛いか、そうか私に魅了されたか、ホモ野郎が寄ってくるんじゃない。可愛いって時には残酷ね、こんないらない虫が寄って来るのだから他にもっとカッコイイのが寄って来てもいいハズなのに。

「ロリコンでホモが寄ってきたら不味くなるから近寄るな」

 頬を引きつらせながらも必死に聞き流そうとしているロリホモの顔ときたら、見ものだ。こっそり笑ってやった事がわかると、ロリホモは黙ってスープを飲んだ。スープで怒りを押し流そうとしているのだ。

「ん。美味いじゃないか、聖戦士様お手製のスープは」

 どうやら怒りを押し流せたらしく、上機嫌になった。それ程に空腹でセシルのスープが美味いのだ。

 時間を置くと美味いというのが間違っていると。美味しいものは、いくらでも食べれるというが、あれは嘘だ。最初の一杯や二杯は進むが三杯目、四杯目には見たくもなくなるものだ。本当に進むのはそこそこ美味しくて不味くないもの、それがこのスープだと思う。最初の一口はこれ以上ない位に美味しく感じられたが、空腹の調味料があったからだ。今、口の中に残っている味はそんなに特別というほどのものではない。

 それこそ飲み物のようにサラサラと入るのは変わらないが、これが一番! と云えるほどではない。ただただ進む。

 だからスープ皿を手にもう一度、大鍋に向かった。

* * *

「うわ~駄目よヴァスそんなホモに近寄っちゃ」

 ちょっと多めに貰って自分の皿を置いていた場所に戻るとヴァスとロリホモが語り合っていた。同じ体力系だからってそんなに語る事があるのだろうか。というか、ムキムキ筋肉二人に囲まれて私は食事を再開しなきゃならないのかっ? 暑苦しすぎる。嫌だー。こんな純情可憐な乙女が野郎二人に囲まれるなんて嫌過ぎる!

「パステルいい加減にしろ! 俺はホモでもなけりゃ、ロリコンでもないからなっ」

 ロリホモが吠えるが関係ない。どう譲ってもお前の行動はロリコンでホモでハゲだ、私が決めたんだから言い分何か聞かない。

私が私のルールだ、他の奴が決めたルールなんて知るもんか。都合よく使わせてもらうだけだ。それ以外は必要ない。

「大声で叫ぶことかそれ?」

 今度はファーンとセシルが連れ立ってやってきた。手にはまだ手を付けていない夕食、スープ配りが一段落ついたのか他の者に代わってもらったのだろう。今日も今日でセシルのスープに感謝だ。

 ヴァスが手を軽く振って溜め息をつく、それで何がわかったのか、ファーンもセシルも顔を見合せて座った。

「パステルがそう言っているんだ」

 事実なのにそれを認めないロリホモが、言い訳がましくファーンとセシルに訴える。そういえばあの場にファーンとセシルはいなかった、もったいないことだ。だから今こそ事実を教えてあげようとするが、ヴァスは私が喋り出す前に教えてしまった。

「言いたい放題言ってた時に口から出たみたいでな、あの時は気が抜けて集中できなかった。なぁパステル」

「ホモって言ったのは私じゃないもん」

 だって眼鏡が言ったんだもん、私はそれに便乗しているだけだもん。悪くないもん事実だから、これ以上ないくらいに事実だから。それを聞いていたファーンが吹いた、そして苦しそうに小さく笑いだす。

「ほっといてやってくれ。勧誘されてた時も笑ってたんだ」

 セシルが冷静に言うが、それが逆に可笑しかった。しかも、あの状況で笑ってたのかファーンは…安易に今の状況と似ているだろう、と想像できた。ロリホモはまた頬を引きつらせていた。

「あ~こういった時になんだが、取り分の話なんだが」

 金銭にそれほど頓着があるように見えないヴァスだが、しっかりしているようで酒の入ってない今の内にはっきりさせておきたいらしい。だからロリホモに自分から寄ったのだろう。

 そういえば最初にヴァスを見つけた時も賭け事で儲けた分をしっかりと持って帰ろうとしていた。確か詐欺の一団“山嵐”、あいつらがこのストーカー達の資金源だろう。その“山嵐”を捕まえる協力をしたヴァスの存在をロリホモ達が知らないわけがない、もしかしたら一足違いでヴァスはロリホモ達に協力していたのかもしれない。そうしたらお宝は全部ストーカー共にかすめ取られていたのかもしれない。

 自分の運に今更ながら感謝する。こういった要所要所で発揮する自分の幸運って素晴らしいわ。

「回復量分はそちらに渡すという件だろう? あれはどうにかならないか? こちらも運搬の支度もあったし他にも新しい武器の調達で金が要り用なんだ、それにちゃんとした手当もしなくちゃならん」

 ロリホモが言うのも正しいが、

「私達が見つけて準備してたのを、そっちが監視してて勝手にしただけじゃない! こっちに文句言わないでよ。分けてあげるだけ感謝しなさい」

 こっちだって無駄足にならないように下調べをきっちり眼鏡としていたのだ、それをロリホモが勝手に上前をはねようとしているだけ。いい加減にしてほしい、私達が調べたものは確実とロクに調べもせず邪魔ばかりする。おかげでどれだけ酷い目にあったことか、今頃探し出したお宝を全部二人で分けていたらこんなに貧乏してない。

「まぁまぁ落ち着けパステル。コルストもだ。ここはこいつで公平に決めようじゃないか」

 仲裁に入ったヴァスが取りだしたのはサイコロだった。

* *

「出た目の大きい方が大きい分だけ相手から貰えるってのはどうだ」

 食事もそろそろ終わり、辺りが騒がしくなる。自分達の取り分の話に群がってきた。身体を痛めているとはいえ、人数では勝てないのは分かり切っている。ロリホモだけを丸めこむのでは足りないというのか、頭のキレる魔法使い達頭脳系がいたのでは騙せない。

 正々堂々と勝負をするというのか、そんな賭けをすれば、こちらが全く鉱物が手に入らない可能性だってあるのだ。普通サイコロには一から六まである、悪くて引き分けかこちらの取り分なし、上手くすればこちらが全部取ることになる。一と六が出たとき、どちらかが全てを失う。危険な賭けだが、

「面白い。その勝負受けて立つ、だがこちらのサイコロはこちらで用意させてもらう」

 ロリホモが受けてしまった。それに、自分の所のサイコロは自分で用意されるといかさまを仕掛けることが出来ない。負けも覚悟の上で勝負に出るというのだろうか。

「勝手に決めないでください、ヴァスさん」

 眼鏡が慌ててやってきた、何処かで食べていたが周りが騒ぎ始めたから何事かとやってきたのだろう。止めに入る眼鏡を止める。

「面白いじゃない! やりましょうよ」

「乗ってくれるじゃないかパステル。誰か台を持ってこい!」

 体力系は思いきりが大事なのよ。それにこういった賭け事は嫌いじゃない。どっちが勝つか分からないから面白いのよ、どんな結果でも楽しければそれでいいのよ! その為に今までの努力があるのよ! 一攫千金、全てか無しか!

 台とも言えない板きれが出されてその上に布がかけられる。脚がないからヴァスとロリホモが向かい合って座り、手にサイコロを握る。何とも言えない緊張感が辺りを支配する。今までの苦労がどうなるかそれが今決まるのだ。緊張しないわけがない。私も手にうっすらと汗をかいてきた。鼓動が早まる、音が周りに聞こえてしまいそうなほどに。この高揚感はそうそう手に入れられない。

「じゃあ私は先に飲んでるぞ、後は好きにしてくれ」

 金銭に無頓着なのだろうか、セシルが全く手を付けていない食事をファーンに渡すと馬車の方に行ってしまった。気高き聖戦士様はお金よりお酒の方が好きだったのだ、飲んでいる所を見たことがないだけに、しかもこんな状況で…意外だ。

 そんな事はいいとしてだ、問題はヴァスの運だ。握り潰されているのかもしれない小さなサイコロに私達の収穫がかかっている。全ては出目勝負! 出ろ! 六!

「六だ」

 何の掛け声もなく、勝手にサイコロを振ったロリホモが宣言した。額に滲んでいる汗が戦いだけのものではない、それは知っているが、同時に振るのが勝負ではないか。

 文句を言ってやろうと間に割って入ろうとしたが、周囲からの圧力とヴァスの視線が止めた。

「勝負」

 ヴァスの手からサイコロが滑り落ちた。